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【詩】シャツ、裏返しで

近所の男の子、 よく話しかけてくれる その子の家からこちらにやって来る 長袖シャツを裏返しに着て ごあいさつをしてくれた と思ったら、 ずっと前に行ってしまった わたしのこどもの姿に変わった 長袖シャツはきちんと表で着ていて でも、 短パン...
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【詩】領海に溶け込んで

私はいま どこにいるのかどこを彷徨っているのか日本にいるのか日本という国にいるのかそれともただ単に日本列島という土地に立っているだけなのか 私がずっと思っていた場所にじつは ずっと存在していなかったのかもしれない 離人感国なき民のうごめき ...
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【自作詩】フラワーベース

二十歳の頃は 肉体の中に心がちゃんと収まっていた いまでは、心の三歩後ろを 肉体がちょこちょこついてくる この心は透明なガラスでできた四角い器 フラワーベースだけれど そこには水も花卉も入っていない 空っぽだった 人生の危機とは、 心が肉体...
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【自作詩】見えないものの輪郭

透明なものなどこの世にはなくて 透明なもの 半透明なものも すべて輪郭が浮かびあがる 輪郭という曲線が直線となり やがて刃先となって わたしのこめかみと喉仏に突き刺さるだけ その、一歩先を理解する人は少ない 一歩手前では無理解と同じだ 銘酒...
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【自作詩】可動式の塀

年をふるごとに 人生の終着点が遠ざかっていく そして 命の終わりが近づく 生き方は未完成で そこにゆらぎがある 時間が 薄まっていく 追い掛けられる時間より 追い掛ける時間が増える 暇つぶしが 日々の目的となり 人生を支配するものは 時間で...
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【自作詩】消えた星を確かめて

消えてなくなってしまった 星を見つめるため 夜眠る 消えた星と わたしがいるといういまここと 背後に、見えずに聳える過去と 一直線で結ばれて わたしは キリンの夢を見る 夜空はいつも プロセスチーズ 歯型にカットされてスライスが 海に落ち ...
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【自作詩】世界を切り開く日

処女は一度経験を持つと 処女ではなくなるが 人は一度世界を経験すると 永遠の少年ではなくなってしまう ぼくは目の前の世界の ずっと 処女だから 果てしなく 今 ここにいることだけで 緊張してしまう 言葉を発すること それは いつもいつも 真...
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【詩】月の向こう側

いまわたしはどこに立っているのか あの満月も向こうに回れば暗闇を司る新月 記憶の図書館の中央で昔の記録が飛び交う いま未来に頭を打って死ぬと 過去が日の出と共に上がる 戸籍に小さな名前だけを刻み 住民票で召し上げられる人頭税の人生 すべての...
スピリチュアル

【詩】ニライカナイからの水音

観光地の新原(みぃーばる)ビーチから 東御周り(あがりうまーい)の聖地の一つ 沖縄で初めて稲作が始まったという 泉が湧く さとうきび畑のなかに 間借りしたような小さな田圃が見える 清水が小川を作り出す 田を潤して 海風が青き稲を撫ぜる しゃ...
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【詩】峠を越えて海に出る

家の 清らかな記憶と 汚れた血肉が 森の湖水に沈んでいく 峠を越えて 海に出る 黒い土地が 見えない潮でコーティング されて ただの砂になる 峠を越えて 海に出る 雨が森を流れて 立木が枯れ 魚が干上がっても お菓子の家が 輝いている 峠を...