鈴木健二さんが亡くなった。
私にとっては、読書習慣のきっかけとなった大切な人だった。
小5のとき、母が書店で鈴木健二著「頭の使い方、私の方法」を買って読んでいた。
若い頃は読書好きだと聞いていたが、私の知る限り普段本を読んでいる風でもなくて、本を買ったきっかけを聞いてみたが曖昧な答えしか返ってこなかった。
読書のはじまり
私自身は、絵本に始まって小学生の頃は子供向けの釣りやアウトドア、料理や鉄道模型など、
物語や小説より圧倒的に実用書的な本が好きだった。
そこに、茶の間においてあった鈴木健二さんの本を見つけてページをめくると時間を忘れて何度も読み返すほどハマってしまった。
小学生の頃、毎週日曜日の夜は、みんながお茶の間に集まって鈴木健二アナウンサーの「クイズ面白ゼミナール」と大河ドラマを見る、といった習慣があった。
まだ、テレビが娯楽の王様として圧倒的に輝いていた頃だ。
だから、鈴木健二さんには自然と親しみを持っていたのも一連の著作に興味を持った背景にある。
ちょうど思春期の入口で、自分とは何か、といったテーマを心のどこかで感じ始めていた時期で、タイミングがマッチしたのだろう。
それからというもの、書店やビデオレンタル店の書籍コーナー、古本屋でも数冊は必ずと言っていいほど並んでいた著作を買い漁った。
鈴木健二さんの本は三笠書房からたくさん出ていた。
ソフトカバーの単行本のほか文庫本も多かった。
文庫本なら当時4、500円だったので、子供のお小遣いでも買いやすい。
鈴木健二さんきっかけで、三笠文庫の自己啓発本やビジネス本は片っ端から読んだ。
雑誌「Newton」の竹内均さん訳の「わが息子よ、君はどう生きるか」や「自助論」から始まって、ビジネス書コーナーにあったナポレオン・ヒルやデール・カーネギー、ジョセフ・マーフィーなども自分が社会を知る入口になり、今の思考法や世界観に大きな影響を受けている。
中学校の頃は、鉄道オタクでもあったので、休み時間になると一番大きなサイズのJTB時刻表を見ながら机上旅行の計画を立てていたが、読書がしたいときはたいてい鈴木健二さんをはじめ書店で買った自己啓発書や図書館で借りたビジネス書をひたすら読んでいた。
中2のある時期、私が休み時間に鈴木健二さんのベストセラー「気くばりのすすめ」を読んでいる噂が職員室で広がったそうで、何人かの先生が入れ替わり立ち替わり私の顔を見にやって来たことがある。
3,000円のプレゼント
鈴木健二さんの著作の中で印象的なエピソードが2つある。
NHKアナウンサー時代、お金を勉強のための書籍代につぎ込んで普段はまったく遊びをしなかったらしい。
だが、1年に1度だけ、大きな料亭を借り切って職場の同僚から部下はもちろん上司まで呼んでどんちゃん騒ぎをする。
そのお代はすべて鈴木健二さんがもっていた。
プレゼントのコツとして、3,000円のスカーフは安物だが、3,000円のボールペンは相手の印象に残る、といった話もあった。
普段、ボールペンは100円から高くても数百円くらいのものを使っている人が大半だろう。
3,000円のボールペンとなると、相対的に価値が上がってくる。
私は大人になった今でも、ちょっとしたプレゼントをするとき、この鈴木健二さんの法則を意識して商品選びをしている。
鈴木健二さん、ありがとう
NHKを退職後に館長となった熊本県立劇場や青森県立図書館を訪れてみたい、と思いつつ時間が過ぎていき、とうとう訃報に接することとなった。
10年ほど前、NHKで「クイズ面白ゼミナール」の復活番組に特別ゲストのようなかたちで出演されていたのがテレビで見る最後だったと思う。
40代も後半に入り、自分が子供や学生の頃に影響を受けた人たちの訃報を耳にする機会が増えた。
改めて糊口を凌ぎ続ける私の生活が、わずかでも世の中や下の世代の人たちに何かプラスになっているのだろうか、そんなことを考えてしまった。