映画「あのこは貴族」は、と今年観た邦画のなかでも「映画館で観たかった!」と悔やんだ作品でした。
2021年2月公開の映画でしたが、最近、岡田斗司夫さんの黙認切り抜き動画で取り上げられるまで知りませんでした。
東京の「階層」をクールに描く監督の腕
東京の上流階級のお嬢様と、地方出身の慶應卒の女性によるストーリー。
こう書いてしまうと、月9のドラマのような既視感のある作品に思えるかもしれません。
しかし、台詞よりも映像中心で「庶民」には見えない「階層」を描く、静かな表現方法で、
岨手由貴子監督の手法が印象に残りました。
かつてよく観ていたレオス・カラックスやルイ・マルのようなフランス映画だったり、小津安二郎監督だったり、そんな匂いがしてきます。
タクシー移動の主人公には庶民の東京が見えない
クールな映像表現の一例に、タクシーを使ったものがあります。
高級住宅地・松濤に住む主人公の交通手段は、常にタクシーです。
タクシーの後部座席でたたずむ主人公には、通りを行き交う会社員やOLといった「庶民」の姿や、東京を作り直し続ける工事現場の様子は、目に入ることはありません。
渋谷区の閑静で閉じられた空間から、上流階級が遊ぶ日本橋や丸の内までの往復ルート。
高級住宅地と都心を幹線道路で往復するだけだからです。
所作によって映像だけで階層を喚起する力
地方出身者の慶應卒女性との初対面のシーン。
ロケ地となってのは、池袋のサンシャインシティ59階にあるレストラン「GINGER’S BEACH SUNSHINE(ジンジャーズビーチ サンシャイン)」。
主人公の友人も交えて3人で語らうシーンでは、眼下に広がる東京の街並みが挿入されます。
カトラリーを落とす場面では、地方出身の女性は慌ててしまうのに対して、お嬢様は胸元まで手を上げてスタッフにアイコンタクトで知らせるといった、階層によるマナーや所作、言葉遣いなどの細かい対比が絶妙です。
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時を重ねる「階層」、流入し続ける「東京の養分」
「田舎から出てきて搾取されまくって、もう私たちって東京の養分だよね」
登場人物のひとりのこんな台詞でさえ、淡々と事実を伝えているのみで、なぜかユーモラスにさえ映ってしまうのは、監督の目がただの対立のストーリーではない、社会を冷徹に見つめる視点だからこそといえるかもしれません。
この作品は、ストーリー全体を通して、誰かを悪者にすることなく、東京で受け継がれてきた「貴族階級」の悲哀をも伝わるように仕上げられています。
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