堺は、私にとって大阪でもなく和歌山でもない、その間に浮かぶ異次元のような雰囲気を持っている。
私の中の堺の位置
これまで堺に最も近づいた地域と言えば、大阪側はミナミや日本橋、住吉大社のあたりまで、その先となるともう友人の泉大津や和歌山にアクセスする際に立ち寄る岸和田サービスエリアや、かつて松山便があり利用していた関西空港エリアまで遠ざかってしまう。
日本史の流れで堺を思い描こうすると、堺はより一段と、時間・地理のイメージにおいて空白地帯に近くなる。鉄砲、自由都市、ずっと後から仁徳天皇陵、そして千利休や与謝野晶子が追い掛けてくる、そのくらいのキーワードを思いつくレベルだ。
大阪は太閤秀吉から歴史を刻み、日本を代表する経済都市であり、和歌山は紀伊国屋文左衛門のみかんに始まり、八代将軍吉宗や和歌山城、紀三井寺、高野山など、観光名所を指折り数えながら挙げることができる。
しかし、堺となるとどうだろうか。単に私が、堺の歴史や観光に疎いだけかもしれないが、大阪や和歌山はともかく堺観光のため旅行に出かけたという友人知人を見聞きしたことがなく、私自身もこれまでただ大阪から紀伊半島にアクセスする際の通過点のまま打ち過ごしてきただけである。
大河ドラマ「黄金の日日」で堺を知る
30代の頃、昔の大河ドラマを一通り見ようとトライしていた時期がある。近くのTSUTAYAの店頭に、大河ドラマコーナーがあり、全話が現存している最古の大河ドラマは1978年放送で市川染五郎(現松本白鸚)主演の「黄金の日日」であることを知った。
当時はまだNHKオンデマンドのサービスもスタートしておらず、DVDをレンタルするしかなかった。近所の店舗に在庫がない場合は、ネット宅配のDVDレンタルサービスであるTSUTAYA DISCASも利用した。
「大河ドラマ 黄金の日日」を U-NEXT で視聴
私がまだ0歳から1歳の年に放映された「黄金の日日」によって、堺のイメージが膨らんだ。「黄金の日日」は脚本家の三谷幸喜氏も歴代の大河ドラマの中でお気に入りの1作に挙げる作品である。戦国時代を描きながら、呂宋助左衛門という船乗りの商人を主人公に据えているため、政治や軍事面もしっかりと描きながら、経済的な視点を主軸に置いている点でユニークな展開が広がっていく。ストーリーがダイナミックであると共に、今では考えられない空前絶後のキャスティングだ。
織田信長を高橋幸治、豊臣秀吉を緒形拳、堺の今井宗久が丹波哲郎で、千宗易が鶴田浩二という豪華さである。物語の初期には、志村喬や宇野重吉、津川雅彦などの登場に加え、全篇を通して根津甚八や川谷拓三、夏目雅子、鹿賀丈史や小野寺昭などが重要な人物として華やかに画面を彩る。
映画やドラマは、一瞬にして私たちの歴史や場所に対するイメージを形成してしまう。その与えられたイメージを基に、その後でいくらでも情報を吸収すれば、より鮮明な堺に対するイメージを描くことができる。
大阪や和歌山より身近な都市に
「黄金の日日」のおかげで、堺は私にって非常に身近な歴史的空間となった。それまで茶道といえば京都のイメージしかなかったところ、千利休が堺の豪商出身であったこと、鉄砲を代表例として商業の強みを活かし、乱世興亡の戦国時代にあって自治を貫いた都市であったこと。戦国時代を彩る人たちが、想像以上に小さな日本の上を往来していて、さらに東南アジアまで交易のため船で行き来していたこと。
頭の中で、大阪よりも和歌山よりも、堺のイメージが大きくなって、一度訪れなければならないと思った。
そんなとき、父の供養のため3年前から秋に続けてきた高野山参りの時期が近づいて、高野山までの道中で堺見物をしてみよう思い立ったのだ。