大学2回生のとき、同じゼミのクラスメイトに社会人入学の女性がいた。
ときどきゼミのワークショップで同じになったり、講義が始まるまでのちょっとした時間に言葉を交わしたりしていた。
近寄りがたいオーラを持つ女性
内側に圧縮されたような独特な空気を持っていて、先生や大学に対する見方もシャープで、一目置かれるような存在だった。
二十歳前後の私にとって、5、6歳は年上であろう彼女はとっても大人に見えた。
一度社会に出たが、その経験がきっかけで大学で学びたいと社会人入試を受けたらしい。
同級生が語る河瀬直美
ある日、ゼミの教室に入って講義が始まるのを待っていると、その社会人学生が斜め前に座っていた。
近寄りがたい空気でありながら、物静かにクラスメイトに声をかける彼女はとても印象的で、私もよく世間話をした。
ちょうどその頃、映画監督の河瀬直美さんが、『萌の朱雀』で第50回カンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)を史上最年少の27歳で受賞したことが話題になっていた。
クラスメイト数人とその話になると、ふと、
「私、河瀬直美と高校の同級生なんだよね」
とつぶやいた。
ざわめきの後、誰かが「どんな感じの高校生だったんですか?」と聞いた。
「当時から、個性的で良い意味で変わっていて、すごくクリエイティブなことをする雰囲気だった。知識も豊富だったし、考え方も深かった」
そう河瀬直美さんを評する彼女も、十分個性的で素敵な雰囲気を持っていると感じていたが、その話しぶりを目の当たりにして、『萌の朱雀』の独特な森と光の映像が目に浮かんだ。
『河瀬直美』の4文字を見るたびに
最近、観た河瀬作品は、樹木希林さん主演の『あん』や、永瀬正敏さんの『光』。
河瀬監督の描くシーンは、一つひとつ世間で平凡に生きている人の中に燻っていて、どうにも逃れることができない社会の縛りのようなものが見える。
ひとりの人間と社会との埋めることのできない断層が見える。
河瀬監督の映画を観ているといつも、河瀬監督が同じ部屋の少し背後に座っていて、画面を見続けている自分をじっと観られているような心地になる。
映画を観ている私の感性を、エンドクレジットが流れ終わるまでジャッジされているような厳しい思いが沸き起こってくる。
そして、河瀬直美さんの新作のニュースや実際に過去の作品に接する度に、その高校の同級生だったという芯の強い何かを抱えた社会人学生の姿を思い出すのである。