20代後半のとき、真面目にAV監督を目指して転職活動をしていた時期があった。
東京まで数社面接に行って、業界の良い面、悪い面も面接官を通して色々と知るなかで、印象に残る会社がある。
企画系をリードする中堅クラスの企業で、社員数は50名ほど。
斬新な企画物の作品を次々とリリースしており、急成長中でこれから会社が大きくなる匂いがある一方で、社長のお父様が経理を担当するなど、アットホームな雰囲気も残っていた。
一次面接で会社を訪れると、いきなり一対一の社長面談がスタート。
穏やかな雰囲気の社長さんで、すごくバランスの取れた印象を受けた。
「うちの会社って、実は書類選考に合格する方、100人いたら1人か2人なんです」
とのっけから優しくプレッシャーを掛けられる。
一次面接は、会社の概要や沿革、業務内容などの説明を受けた後、後半は私の趣味や好きなこと、未来の夢など、ゆるい感じで人間性を知りたいといった進行で終わった。
もっとガンガン厳しい質問がやって来るかと覚悟していただけに、終始楽しい空気で終了。
数日後、最終面接の通知が届いた。
最終面接もユニークで、その会社のNo.1の監督さんとマンツーマン。
億単位で稼いでいるというその監督さんは、ざっくばらんで物腰も柔らかい一方で、しっかりした核を感じてとっても信頼できる印象だった。
面談自体は、朝の10時からスタートして、途中昼休憩を挟んで夕方まで。
面接形式ではなく、ほぼ一方的に監督さんのレクチャーを聴くといったスタイルだった。
内容も、業界や業務のことではなく、成功するには何が大切か、ビジネスで生きて行くために必要なスキルや考え方とは何か、未来に向けてどうやって夢や目標を実現していくのか、などがテーマ。監督さんがこれまでの業界経験から得たビジネススキルを、時に質疑応答も交えながら私ひとりのために講義するという面白い体験だった。
どんな小さな質問でも、真摯に答えてくれたことがとても印象に残っている。
面談終了後、合否の連絡について尋ねると、
「合否はあなたが決めて下さい。前回の社長のお話、今回の私の面談を通して、『ここで働いてみたい』と思ったら連絡ください。違うと思ったら連絡はしなくて大丈夫です」
とのこと。
色々悩んだ挙げ句、連絡はしないまま今に至っているが、ニュースや世間話で就活・転職について見聞きするたびに、ユニークで濃密な時間だったこのAV会社の2回の面談を思い出してしまう。