ここ数年、たたら製鉄が注目されています。
島根や兵庫など中国地方にその痕跡を残すたたら製鉄は、現代の技術を持ってしても再現できないほど高品質な鉄を量産していました。
たたら製鉄を語るうえで欠かせない、島根県の山間部に保存されている菅谷高殿(すがやたかどの)を訪れました。
菅谷たたら山内に残る国の重要民俗文化財
雲南市吉田の中心地にある鉄の歴史博物館でたたら製鉄について学んだ後、さらに移動。
町から車で10分ほど山道を北上すると、左手に深い谷が見えてきます。
標識に沿って谷筋を入っていくと、そこが菅谷たたら山内。
駐車場から歩くとすぐ、国の重要民俗文化財、菅谷高殿が出迎えてくれました。
ちょうど先客を連れた高齢男性のガイドスタッフの案内で、一緒に中へと入ります。
国民的作家や世界的アニメ監督も見学
ここには、かつて司馬遼太郎や宮崎駿も見学に訪れています。
最近では2017年公開の映画「たたら侍」の主要キャストであるEXILEの青柳翔や小林直己の姿も。
さらに、「鬼滅の刃」が大ブームになってからは、一気に見学者が増加中。
物語のなかで「玉鋼(たまはがね)」という言葉が登場することから、にわかに子ども連れのファミリーをはじめアニメファンが遠方から訪れています。
数十年前までただの倉庫だった
1921年(大正10年)、江戸中期から約170年続いた操業が終了。
60代に見えるガイドスタッフはこの近くに生まれ育った方。
小さい頃は村の物置小屋として使われていて、子どもたちの遊び場だったそうです。
子どもたちも村の大人たちも、今のように歴史的に重要なものという感覚もなくありふれた倉庫といった位置づけでした。
合理的な建物構造
建物内部は役割ごとにきちんと空間が仕切られています。
中央に製鉄炉と鞴(ふいご)。
奥には砂鉄、炭、粘度を置くスペース。
製鉄炉の左右には村下(むらげ:操業を監督する現場トップ)が休憩する詰所。
無駄のない機能的な構造です。
天井を見上がるとビル3階建てぐらいはありそうで、想像以上に高いことがわかります。
建物そのものの美
外に出て、建物の特徴を見ていきます。
全国で唯一現存する高殿という建築様式。
その特徴は、入母屋造りの妻入り。
さらに、こけら葺きであること。
削り出した小さな木片を互い違いに重ね合わせていて、雨や雪に強く、見た目も美しくなっています。
高速下りて10分で歴史体験
松江自動車道の雲南吉田ICから車でたった10分ほど。
自然に囲まれた谷間に、先人たちの奇跡の営みが伝わります。
実物をその目で確かめられる、貴重な歴史的建造物です。