言葉で表現できないときは音楽で

エレクトーンは4歳から、ピアノは中1から習っていた。

両方とも大学受験に合わせて高2で辞めてしまったが、大人になってからも時折ピアノを弾いてみることがある。

発表会で弾いたお気に入りの2曲

高2の秋に地域の教室が合同で開催した発表会がひとつの区切りだった。

高校に入るとエレクトーンよりピアノの方が性に合っているとわかって、ピアノばかり弾いていたため、最後の発表会もピアノで参加した。

1曲目はバッハ「フランス風序曲」、2曲目はベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第8番〈悲愴〉第1楽章」である。

バッハ「フランス風序曲」

ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第8番〈悲愴〉第1楽章」

高校に入学した頃、レコード店で見つけたグレン・グールドのCDにハマって、よく感動のあまりバッハを聴きながら部屋で泣くこともあったほどだった。

グールドの弾くバッハの解釈は非常に鮮烈で、中でも「フランス風序曲」はお気に入りの作品となった。

最近は発表会やCDでも取り上げられることが増えたものの、当時はまだバッハの中でもかなりマイナーな曲で、一通りバッハは練習したというピアノの先生もこの曲は弾いたことがないと話していた。

エレクトーンやピアノの発表会に参加する高校生の男子は希少らしく、先生たちにちやほやされていたのをよく覚えている。

言葉で自分の思いを表現できないときのために

3つの上の姉も4歳からエレクトーンの幼児科に通っており、私も母に連れられていたため、姉の授業が終わるまで教室の後ろで寝転んだり這うようにして遊びながら待っていた記憶がかすかに残っている。

なぜエレクトーンを習わせたのかと、中学生の頃、母に聞いてみたことがあった。

すると、

「いつか大人になるにつれて、自分の感情や気持ちを言葉にして周りに伝えられないときが来る。

そんなときのために、ひとつの表現の手段として音楽を身につけさせたかった。

音楽のお稽古というとピアノがメジャーだが、クラシック以外の色々なジャンルの音楽を楽しんで欲しくてエレクトーンを選んだ」

と教えてくれた。

たしかに、この母の予言は後に的中した。

音楽をやっていて本当に救われたなと感じたのは、高3の1年間、ひたすら寸暇を惜しんで受験勉強をしていたときだ。

高3の4月からは、早起きして勉強してから登校し、休む時間も勉強を続け、夕方帰宅してからは6時までに夕飯と入浴を済ませた。

そこからの7時まで、取り憑かれたように高2の発表会で弾いたバッハとベートーヴェンを弾き続けていた。

今から思うと、一日に1時間、一心不乱にピアノを弾き続けることで受験のストレスを和らげていたのだろうし、進路や将来の不安を音楽の世界に没頭することで一時忘れたかったのかもしれない。

受験生にとって1日1時間の貴重な時間をピアノに費やしていいものかと迷いながら大学受験が始まるまで続けていたが、今となってはそのおかげでメンタルをどうにか保ちながら受験勉強を最後まで駆け抜けることができたのではないかと思っている。

これからも少しずつピアノの世界で遊びたい

最近また、時々鍵盤で遊んでいる。

ひとまず高2の発表会で弾いた2曲をおさらいしながら、新しい曲にもチャレンジしているが、なかなか思うように指が動かない。

何事も日々の積み重ねが大切だ。

ピアノの練習も、毎日10分でもいいから触ってみると、やがて自分の思いを載せるだけの楽曲が身につくのだろう。