中山可穂『サグラダ・ファミリア[聖家族]』【読書メモ】

20代前半、京都で憂うつな一人暮らしをしていたとき、たまたま入った書店で中山可穂の『白い薔薇の淵まで』に出会った。

なお、下記ページから中山可穂の作品をKindle版で手軽に読むことができる。

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レズビアンの魂がぶつかったときに発火するもの

同性愛のカップルだからこそ、素肌の魂同士がぶつかり合い、傷つけ合う壮絶な恋愛ストーリーは、当時暗闇の中を手探りでもがきながら歩いていた自分にとって、人生の深淵を垣間見られる唯一の小説となった。

中山可穂つながりで人生で唯一無二の親友にも出会えたり、数年間、中山可穂の非公式ファンサイトや掲示板を運営をしたり、生きるよすがになっていた。

その後、新刊発売記念のサイン会には2度ほど、松山から深夜バスで東京都内の書店にまで駆けつけたこともあり、今から振り返るとあれが青春の1ページだったのだろう。

サグラダ・ファミリア[聖家族]』は、初期の『猫背の王子』や『天使の骨』といった”王子ミチルシリーズ”とは異なり、レズビアンカップルをベースにしながらも夫婦関係や不倫関係、親子関係などの社会性を帯びた人間関係もキーワードとなっていて、他の作品以上に読み手の性別に関係なくすんなりと物語に入っていけるといえるかもしれない。

【読書メモ】中山可穂『サグラダ・ファミリア[聖家族]』

そうだわたしは、この先女の子と寝ることはあっても、もう恋人はつくらないだろう。バイクの後ろを永久欠番にしたまま、年を取っていくだろう。ピアノも、バイクも、ひとりで使うようにしか出来ていない。どちらも完璧に孤独な道具なのだ。

中山可穂『サグラダ・ファミリア[聖家族]』より

自分の恋人や配偶者の性自認や性的指向性を疑ったことのない人、意外に多いんじゃないか。女友達と旅行にいってきますとか、男友達の連れの集まりとか、そういう男社会の視点で語られるところのホモソーシャルなものすべてをひとつずつ精査していくような、それがこれからの未来なのか。

それが中山可穂が小説で「同性カップルは嫉妬も二倍になる」って書いたあたりと通じることであり、これから社会が性的指向の種類に関わらずすべての性が揺らいでいくことを社会として受容していくことでもあるし、複雑なように見える性のグラデーションがシンプルなものに変わっていく未来なのかもしれない。

三人で、川の字になって昼寝することもあった。 「こうしてると、何だか家族みたいだね」 「わたしがお父さん?」 「ううん、お母さんが二人」 「そういう環境で育った子供は、どういう大人になるんだろう」

中山可穂『サグラダ・ファミリア[聖家族]』より

LGBTQの議論が加速する社会の中で

中山可穂の作品と初めて出会って、早20年以上の時が経った。

当時予想していたのと異なり、フェミニズムやジェンダー論の基本的知識より、LGBTQの議論や認識のほうが先に社会に浸透しつつある。

そのため、前提となる知識が漠然としたまま、階段を何段飛ばしするかのようにLGBTQを社会としてどう扱っていくかというアプローチがこれほど可視化されるとは思わなくて、丁寧で着実な議論や手続きが進むことを願っている。

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