現在公演中の文楽錦秋公演を聞きに行った。
1部と2部を通しで見るのは数年ぶりだった。
1年以上ぶりの大阪・国立文楽劇場
平成の黄金期を支えたベテランたちが少しずつ減っていき、大阪市補助金問題の頃は自分が足繁く通っていた頃とは文楽が薄くなってしまった印象を持っていた。
その後、個人的な事情も重なりずいぶん足が遠のいていた。
直近の文楽と言えば竹本住大夫引退興業で『伊賀越道中双六』の「沼津の段」を聞いた折だったろうか。
文楽の醍醐味を味わえる鳥肌の舞台
結論から言えば、Twitterの前評判の通り、絶対公演に行くべきだと感じた。
文楽で鳥肌が立つなんていつぶりだろう。
文楽で情景や台詞の語りを担当する大夫の成長が目覚ましかった。
また、人形遣いの中心的なメンバーの息も素晴らしく合っていた。
文楽行って来ました。 先ほど終演しましたが、鳥肌が立ちっぱなし! 玉藻前道春館は玉男さん、和生さんが光ってました! 七化けは勘十郎さんワールド全開! 久しぶりに拍手の鳴り止まない文楽劇場を体感しました。 pic.twitter.com/4REMKZYOwH
— 吉田廣の助(淡路人形座) (@yosihironosuke) 2015, 11月 11
とくに最後の幕「化生殺生石」大阪上演は125年ぶりという2部の『玉藻前曦袂』(たまものまえあさひのたもと)は全篇圧巻だった。
【錦秋文楽公演】『玉藻前曦袂』より「化粧殺生石」のご紹介! | 独立行政法人 日本芸術文化振興会
変幻自在の狐
妖魔の狐が主人公の話。
歌舞伎ではよく上演されるものの、当然、初見の演目だった。
文楽のいいとこ取りの詰め合わせのような濃密なストーリーである。
時代物の体裁を取りながら、立ち回りはある、色っぽさはある、江戸時代の流行と思う踊りや旋律をふんだんに取り入れている。しかも宙づりや早変わりがある。
これまで見た演目とはまったく違う文楽の醍醐味のジェットコースターのようだった。
”唾かぶり”も嬉しくなる逸材たち
何と言っても白眉は千歳大夫の語りである。
久しぶりに聞いた高い調子で伸びやかに通る千歳大夫の特徴ある声。
そこに、以前はあまり感じなかった情の深みがずしりと加わっていて大変に腹に応えるものだった。
熱く真っ直ぐな語り口調が人柄を感じさせる。
席が出語りのすぐそばだったため落語の『くしゃみ講釈』ではないが千歳大夫の唾がどんどん飛んできて、砂かぶりならぬ唾かぶり状態だったのも熱気のうちである。
「神泉苑の段」「化粧殺生石」をはじめ一部でもバトンタッチとなった『碁太平記白石噺』(ごたいへいきしらいしばなし)「浅草雷門の段」などで大活躍の咲甫大夫。
硬質で高い調子だった記憶があるが、がらりと語りの様相が熟成されていた。
「道治館の段」の人形遣いの面々の凝縮されたパワーもここ数年で感じたことのなかった興奮を与えてくれた。
先ほどの大夫二人に「鰻谷の段」の呂勢大夫も加えて、これからの文楽の中堅がしっかりと育ってきていると感じて非常に嬉しかった。
再び文楽に足が向く絶品の舞台
【大阪・国立文楽劇場よりお知らせ】錦秋文楽公演の配役入りチラシが完成しました!先日、スチール撮影をした『玉藻前曦袂』の「玉藻前実は妖狐」が、美しく、また妖しく映えるデザインとなりました。ぜひお手にとってご覧ください! pic.twitter.com/u8vtzGZfYv — 国立劇場文楽公演(東京・大阪) (@bunraku09) 2015, 9月 2
文楽に通い詰めていた十数年前、玉男・蓑助・住大夫・寛治の4巨頭の円熟期にあった文楽の深みと濃密さが再び舞台に戻ってきたように思う。
懐かしく、また「これが自分が求めていた文楽だ」と思えるほどの出来だった。
「道春館の段」など舞台に先代の玉男師の存在を感じたほどだ。
また、陰陽道の呪術が大きな役割となる「祈りの段」では舞台に様々なエネルギーが飛び交っていてまさに妖気な雰囲気だった。
今回の演目は今後の文楽の10年先、20年先がとても明るいと感じさせてくれる素晴らしいものだった。以前のように大阪まで文楽を聞きに足を運びたいと思う。
文楽が気になった人に耳より情報
気軽に観られる幕見席
文楽の定期公演は東京の国立劇場と大阪の国立文楽劇場で開催されている。
また、地方都市への巡業も年に数回予定がある。
文楽は初めてでチケット1枚を買うのはちょっと、という人には『幕見席』がおすすめだ。
歌舞伎で一般にも知られるようになってきたが、一幕分(30分程度〜90分超えるものもあり)を数百円から2,000円程度で見られるというものである。
”公演チケットの部分買い”といったイメージで気軽に文楽の世界に親しめるのがポイントといえる。
おすすめ本&CD
また、劇場まで観劇の機会がない人には書籍やCDから入るのも良いだろう。
コメント