道後温泉のまちに生まれた伊予猿として(4)道後に行かない松山人

京都人が金閣寺に行かないように、松山人は道後温泉には行かない。

少なくとも多くの市民は、平素、道後温泉本館の湯につかることはなくて、郊外の温泉施設に通っている。

この記事の情報は2015年11月現在

”掃いて捨てるほど”ある温泉

f72a6f213590ac22f169df7767efbc87_s

松山は温泉の多いところであり、古くから市民に愛されているものでも古戦場の星乃岡温泉、かつて片岡鶴太郎も舞台修行したという鷹ノ子温泉(現在名:たかのこの湯)、美肌の権現温泉、久米の東道後ファミリー温泉(いよてつ健康ランド→湯快爽快いよてつの湯→現在名:東道後のそらともり)があったし、バブル期以降に新設された温泉でも南高井温泉ていれぎの湯、東道後温泉久米乃癒(旧称:ユートピア温泉東道後)、さや温泉ゆららなど枚挙にいとまがない。

道後温泉から比較的離れて暮らす住民からすれば、極言において、観光や経済効果の面はひとまず横に置くと、日常生活に道後温泉がなくなったとしても大きな影響は受けず、いくらでも入る温泉はあるというのが本当のところかもしれない。

道後が市民に”やさしくない”理由

cde633ae715691a316399b33b0610b3c_s

道後温泉は近年ずいぶん周辺駐車場が整備されてきたとはいえ、他の地方都市と同様、松山も車で移動しなければらちが明かない町になってしまっているため、道路も狭くアクセスしづらい道後に行くのはどうしても足が遠のいてしまう。

さらに、道後温泉本館と椿湯にはサウナと水風呂がない。

これは松山市内だけでなく愛媛県内の温泉施設に行けば、とくに男湯の場合、サウナと水風呂の充実度がそのまま集客数に反映されるといってもいいすぎでないぐらい大切な要素となっている。

熱めに沸かされている道後温泉に入って火照りを冷まそうとすると、桶に水をためて行水するかシャワーを浴びるほかなく、温泉といえばサウナ命という傾向があることを考えるといささか魅力に欠けるといえるかもしれない。

筆者の場合も温泉に行くというと車移動になることがほとんどのため、道後温泉を尻目に山手に入った奥道後温泉まで足を伸ばしたり、または北条方面の権現温泉となるだろう。

道後の方が近いとしても久米方面に足を向けるだろう。

郊外の温泉施設は当然駐車場問題もクリアしているからだ。

サウナや水風呂の有無といった施設面、車が市民の足という交通事情など、一風呂浴びに行くという観点からすると道後温泉はどうしても選択肢の順位が下がってきてしまう。

市民からすると道後というのはある意味、古き良き時代の趣を今に伝えるテーマパークのような感すら漂うといえるかもしれない。

したがって、道後温泉本館は観光客と道後の古くから住んでいる年寄りが入るものだというのは市民の常識に近いのでないかと思う。

公平な福祉と道後の湯

8adf9a6a939620f44ac3f909b33e1f74_s

そんななか、2012年(平成24年)2月14日に道後温泉に関する次のような報道がされた。

『松山市包括外部監査:道後温泉の「高齢者優待に格差」 市に廃止求める /愛媛』毎日新聞 2月14日(火)15時2分配信

松山市の11年度包括外部監査(監査人、山邊彰三・公認会計士)の報告書が13日、市に提出された。道後温泉の市内の高齢者優待事業について、温泉からの遠近によって市民間で格差があり不公平として廃止を求めるなど問題点9件を指摘した。市は「対応を検討する」としている。

道後温泉の優待事業は高齢者福祉を目的に市が年間約7000万円を支出。市が運営する本館と椿の湯の入浴料を85歳以上無料、65歳以上を半額としている。これに対し民間の公衆浴場では、松山市浴場協同組合への補助金で月2回に限り65歳以上を半額としているが、無料制度はない。

報告書は「道後温泉から離れた地域では恩恵を受けられない」と不公平さを指摘。道後温泉の優待を廃し、公衆浴場の制度への統合を求めた。(以下略)
【中村敦茂】2月14日朝刊

▼記事引用元
http://ameblo.jp/town-watch/entry-11169387468.html

この報道が出るまで、道後温泉でこのような割引制度があったことを知っていた市民はあまりいないのではないだろうか。

「② 各種割引等の再検討について
85 歳以上無料、65 歳以上半額のサービスについては、道後温泉近隣の高齢者が利用しやすく、そうでない高齢者との公平性を欠くと考えられるので、縮小を検討すべきである。
具体的には、道後温泉本館においては、無料、半額サービスを廃止して、椿の湯に限定するとともに、85 歳以上の高齢者についても100 円の入浴料を徴収すべきである。」

『平成20年度 第4分冊 平成13年度包括外部監査のフォローアップ』(p.32)

この高齢者優待制度は上記の平成20年度に続いて報道の通り平成23年度の外部監査により再度廃止を求められ、現在のところ松山市は「現在、関係課との検討会で、制度の存続等についての今後の方向性等を協議しており、平成25年度内に方向性を決定する」*1 としている。

ちなみに、松山市公式サイトによる道後温泉本館ページにおいて高齢者割引適用については「高齢者は、松山市内に、住民登録のある65歳以上の方です。」と記載があるのみとなっている。*2

▼参考サイト▼

●包括外部監査<松山市ホームページ
http://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/keikaku/gyosei/gaibukansa.html

○指摘事項に対する措置状況について

*1・平成23年度 措置状況一覧 p.1
・平成23年度 措置状況詳細   p.2

○包括外部監査結果報告書
・平成20年度 第4分冊 平成13年度 包括外部監査のフォローアップ (pp16-17)より以下抜粋

「収入の中の負担金とは、社会福祉事業の一環として、松山市に住民登録のある高齢者 及び障害者の浴場使用料の道後温泉本館、椿の湯の入浴料を、85 歳以上は無料、65 歳 以上 85 歳未満及び障害者は半額としているもので、高齢福祉課、障害福祉課が負担する ものである。
従前は、負担金予算に上限があり、その予算を超えた分を道後温泉事業特別会計が負 担していたが、平成 15 年度から、割引料全額が負担金でカバーされることになり、道後温泉事業特別会計の負担金はなくなった。
負担金対象の入浴者数と負担金総額の推移は、次のとおりである。

平成 19 年度の事業区分別、本館と椿の湯別の負担金の内訳は、次のとおりである。
1老人福祉事業分
i)85歳以上 無料
本館 椿の湯
69,962,120 円
@400 円×19,540 人=7,816,000 円
@330 円×22,374 人=7,383,420 円
合計 15,199,420 円

ii)65 歳以上 85 歳未満半額割引
本館 @200 円×93,333 人=18,666,600 円 椿の湯 @170 円×212,330 =36,096,100 円

合計 54,762,700 円」

*2 ▼営業時間と料金案内<利用案内<道後温泉<<松山市ホームページ
http://www.city.matsuyama.ehime.jp/kanko/kankoguide/kankomeisho/dogoonsen/info/ryoukin-jikan.html

「松山市内に住民登録のある高齢者及び身体障がい者等の料金」
コース         高齢者     身体障がい者等     ご提示いただくもの
神の湯 階下     200円     200円         高齢者手帳や健康保険証などの、生年月日と住所が確認できる公的機関が発行した証明書
椿の湯         180円     180円         身体障害者等の手帳

・高齢者は、松山市内に、住民登録のある65歳以上の方です。
・身体障がい者等は、松山市内に、住民登録のある身体障害者手帳などをお持ちの方です。
・神の湯階下と椿の湯以外のコースは、通常料金になります。