日帰り温泉物語(4)何度も出禁になったおじいさんが舞い戻ってきた話。

日帰り温泉物語

よく行く日帰り温泉の話。

30年以上通っているだけあって、個性的なお客さんと出会ってきました。

どこの施設でもある話でしょうが、例えば出入禁止になるようなお客さんも何人か知っています。

遊び人の気さくなおじいさんに一杯ごちそうになる

10年以上前、その温泉施設がだんだんと斜陽化していて、お客さんが減り始めていた頃のこと。

まだ館内のレストランが営業していたので、地元の常連のおじいさんたちが昼飲みをしていました。

送迎のシャトルバスで訪れたときなどは、私もランチの定食を食べながら生ビールを飲むことも。

ある日、浴室でよく話す常連のおじいさんがしゃべりかけてきたと思ったら、スタッフに「兄ちゃんに生ビール1杯!」と、おごってくれたことがあります。

すっかり顔が真っ赤でご機嫌のご様子。

ほろ酔いでつい一杯飲ませてやろうなんて気になってくれたのでしょう。

その常連のおじいさんはユーモラスの雰囲気で気さくな方でした。

当時、70代前半でしたが、近所のこの日帰り温泉に入るほかにも、週1回、車で下道を1時間ほどかけて田舎のほうのお気に入りの温泉施設にも入りにいっているのだそう。

毎週行くにはちょっと遠くて、もし自分だとしたら億劫に感じる場所ですが、それほどお元気なんだなと聞いていました。

しばらく日帰り温泉に行かない期間が続いて、半年後だったか久しぶりに入りに行くと、別の常連さんからそのおじいさんが亡くなったと聞かされました。

ガンだとわかってから思ったよりも早かったようです。

常連さんたちが亡くなるまでの経緯を少し話してくれました。

もともと地元でそこそこの会社を経営していたおじいさん。

余命がわかると、近所の親しい温泉仲間を集めて九州の温泉に出掛けたそうです。

メンバーには奥さんは入っていなくて、その代わりに当時の彼女さんが一緒だったとか。

イメージに違わず、遊び人だったんだなと、とてもあの方らしくて笑ってしまいました。

ことごとく出禁行為をやってしまうおじいさん

さて、その亡くなった常連さんの友人のおじいさん。

ずいぶん日帰り温泉で見かけませんでしたが、ここのところたまにやって来ます。

10年ほど前、何度も出入禁止になったと他の常連さんから聞かされていました。

浴室のタイル床がヌルヌルしていて汚いからと、従業員室の倉庫からホースを持ってきて洗い場の蛇口につないで掃除をしていたり、水風呂がヌルいからと勝手に水温調整していたり。

その度に施設の支配人から出入禁止になったものの、先年ガンで亡くなった常連さんが「わしが責任持って目を離さないように面倒見るから」と頭を下げて許してもらっていたそうです。

常連客でレストランでもよくお金を落としてくれる上、地元の名士とあって、施設側も、一目置いていた関係もあったのでしょう。

極めつけ、鮮明に覚えているのは、ある日、浴室の入口のドアに「水風呂でレモンを食べないでください」という貼り紙があったこと。

ときどきそのおじいさんが水風呂にレモンを何個か持ち込んで、浮かべていたり、囓ったりしていたのは見かけたことがありましたが、宛名もないのに相手が誰か特定しまくっているその貼り紙に吹きだした思い出があります。

生中1杯のご恩に

いまやそのおじいさんも70代後半。

わんぱくそうな顔つきとやんちゃそうでよく通るお声はそのままですが、ずいぶんおじいさんになっていました。

最近は、色々と言いたいことをひとり言のように話してはいるものの、以前のように出入禁止になるような行為は見られません。

ずいぶん落ち着いたんだなあと感心しつつ、亡くなった常連さんにいただいた生ビール1杯のご恩を返すため、私が通えるかぎり出禁常習犯のおじいさんを見守っていきたいと思います。

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