生きている者のための葬式

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家族とテレビを観る、という習慣もすっかり減ってしまったが、子供の頃にみんなで観た番組を鮮明に覚えていることがある。

家族と観たテレビ番組

Monks

NHKスペシャル「ブッダ 大いなる旅路」もその一つだ。

1998年に全5回で放送された番組で、インドや東南アジア、中国など、ブッダの足跡と仏教の伝播をドキュメントで辿る構成である。

放映当時、たまたま今は亡き祖父とふたりで観た。

中村元と原始仏典

ブッダの教えに近いといわれる経典の中で有名なものは、中村元によってパーリ語原典から翻訳され、岩波文庫に収録されている。

この放送を観て、一般に涅槃経と呼ばれる「ブッダ最後の旅―大パリニッバーナ経」を買った。

当時通っていた大学の生協は岩波文庫が充実していたのだ。

映像と本とを連動させると、さらに胸熱くなる物があった。

葬式は生きている者のため

Funeral party in Sulawesi

番組の中で特に印象的だったのが、アジア各地の葬式の様子を紹介していたことである。

小乗仏教が色濃く残る地域では、ブッダの「死者への執着を断ち切ること」という教えを現代の葬式でもそのまま引き継いでいる。

ある村で寿命が尽きようとしている老婆がいた。

家族は僧侶を呼び、死の床に伏せる老婆とそれを囲む家族の前で読経を始める。

経文の内容は、すべての物事は移りゆくものであり、死者に執着してはならないという真理であった。

お前たちは修行完成者の遺骨の供養(崇拝)にかかずらうな。どうか、お前たちは、正しい目的のために努力せよ。正しい目的を実行せよ。正しい目的に向かって怠らず、勤め、専念しておれ。

止めなさい。友よ。悲しむな。嘆くな。尊師はあらかじめ、お説きになったではないですか。——〈すべての愛しき好む者どもとも、生別し、死別し、死後には境界を異にする〉と。

己を寄りどころとせよ

candle

後世、このブッダの教えは〈自灯明、法灯明〉と呼ばれ、「自分自身そして仏教が伝える真理だけを自分の寄りどころとする」というシンプルな教えにつながっていく。

老婆が亡くなって、葬式となった。

泣き叫び、取り乱した遺族の中には遺体に取りすがろうとする人もいるが、周囲がそれを押しとどめていく。

死者に執着してはならない。

そうしたブッダの教えの息吹がそのまま伝えられている。

ブッダの臨終に際して、弟子のアーナンダは嘆き悲しんだ。

そこでブッダは次のように説いた。

やめよ、アーナンダよ。悲しむな。嘆くな。アーナンダよ。わたしは、あらかじめこのように説いたではないか、——すべての愛するもの・好むものからも別れ、離れ、異なるに至るということを。およそ生じ、存在し、つくられ、破壊さるべきものであるのに、それが破滅しないように、ということが、どうしてありえようか。

春のお彼岸に寄せて

春の彼岸に入って、死者たちと語らう機会も増える時節。

シンプルなブッダの教えを噛みしめるのに、最適な時期といえるだろう。

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