101歳でも昔と変わらず頭がしっかりしているメンターだった方の奥様のこと。

メンターの奥様を訪ねた。

コロナ禍もあって、2020年秋にお住まいのサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)を訪問したきりになっていた。

事前に施設に電話すると、コロナ禍に設けていた面会ルールも自由になっていた。

外来者にはマスクの着用はお願いするが、以前のように居室に行ってお話しできるそうだ。

電話で奥様に訪問したい旨を伝えてもらうと「ぜひお越し下さい」とのお返事がいただいた。

百寿と思えないお元気な姿

今年で100歳だとばかり思っていたが、早生まれのため101歳になっていて、去年お祝いに総理大臣から贈られたという銀杯を見せてくれた。

「こんなものもらってもねぇ。それよりこれ、本物?それともメッキ?」

とおしゃって、そちらの真偽のほうが気になっているらしい。

人との距離感を保つ感性も見事

最近は同年代のお友だちも亡くなったり、認知症になって引っ越したりで、色々あったらしい。

「認知症になった人から、物やお金を取られたっていわれることがあるから、もっと仲良くしたいんだけど、うまく距離は取るようにしてる」とおっしゃるところなぞ、いつもながらしっかりされている。

お子さんがみんな70代になったそうだ。

「それぞれガンや何やらで、私よりこどもたちの方が先に逝きそう」

と冗談半分に心配されていた。

コロナ禍で2年の空白期間

以前お目にかかったのはコロナ1年目の秋。

2年ほど空いたけれど、以前より顔色も肌の色艶もよく、表情も明るくなっていた。

「体はなかなか言うことは聞かないけれど、去年ぐらいから食欲も戻ったし、なぜか元気になってきた」

とおっしゃる。

生活費を節約するため、それまで介護保険で通院介助を利用していたそうだ。

しかし、介護費用が勿体ないからと、かかりつけ医をお住まいのすぐ近くのクリニックに変えて、手押し車をゆっくり押しながら往復するのだそうだ。

アメリカに残るメンターの思い

もともとメンターだった方は、地元で熱心にボーイスカウト活動をされていた。

奥様も還暦の頃までは旦那様と一緒にカブスカウトやボーイスカウトのお世話をしていた。

その経緯もあり、私の母のこともよく知っている。

なお、メンターについて詳しく書いた記事はこちらをご一読下さい。

高校生の政治活動を一部の県で制限する問題について話題となっている。 とくに愛媛県では県下の公立高校で政治活動を事前に届け出ることが校則...

GHQの検閲を乗り越えて

訪問の前日、ボーイスカウトの歴史について調べていた。

すると、メンターだった方のお名前がネットでヒットしてページを見ると、国立国会図書館デジタルコレクションのページだったので驚いた。

戦後ボーイスカウトを復興するのに東奔西走したという話は聞いていたが、1948年(昭和23年)にボーイスカウトの手引書を謄写版で出版されていた。

収蔵元はメリーランド大学プランゲ文庫となってる。

メンターの書籍がアメリカに残っているとは感慨深い。

今回初めて知ったメリーランド大学プランゲ文庫とは、GHQ占領下に検閲を受けた日本国内の出版物のコレクションである。

Home – ゴードン W・プランゲ文庫の資料検索・利用方法 – Research Guides at University of Maryland Libraries

終戦後のアメリカ一色の世の中で

戦前、神戸でボーイスカウトを発祥国イギリスの流れで学んで、戦後は復興のため中央でも活躍していたが、アメリカ経由のやり方に疑問を感じて身を引いたと聞いたことがあった。

私も当時は中学生だったから詳しくは話してくれなかったものの、戦後のGHQ占領下でかなり苦労されたんだろうと今なら理解できる気がする。

おそらく政治的、経済的な裏側の駆け引きもあって、イギリス派とアメリカ派の対立といったあれこれがあったのだろう。

親子の血は争えない

こどもさんの話になった。

お子さんの一人が高校生の時、学生運動で警察に目を付けられていたそうで、大変だったという。

それを聞いて、ふとメンターから伺ったことのあるエピソードを思い出した。

「ぼくも亡くなった旦那さんから、戦前、大学生の頃、マルクス=レーニン主義が本当に正しいのかを知りたくて『資本論』を原書で読んでいたら、通学の行き帰り、しばらく特高警察に尾行されたと聞いたことがありますよ」と話してみた。

すると、

「その話、初めて聞いた!やっぱり親子で同じだったのね」

と大笑いされていた。

「昔、お聞きしました。鬱陶しいから、尾行している警察官のところに行って『ただ通学しているだけで、やましいことしてないんだから帰ってくれ』って叱り飛ばしたっていってましたよ」

と伝えておいた。

すると奥様は、

「うちのお父さんも、学生運動していたこどもに『若者が社会に対して疑問を持って行動するのは良いことだから、そこは認めているから安心しなさい』って話していたことがあったわ」

そう凜としておっしゃった。

自分の核となっているご夫婦のご恩を思って

子どもの頃、メンターからこの手の話を聞く度に

「たとえ自分の考えとは違う、間違ってるって思う反対意見でも、ちゃんと原典に当たること」

と強調されていた。

子どもの頃にやっていたからといってボーイスカウトはひとつの例だが、私もご夫婦のように何か社会的使命を果たせるような人生の目標や夢がないだろうか・・・・・・。

そんなものをそろそろ見据えなければならないだろう。

そうしなければ、これからの自分の人生が成り立たないような気がしている。