よく行く日帰り温泉での話。
2021年5月、コロナの感染状況が、まだまだ先行き不透明な時期のことだった。
露天風呂で浸かっていると、不意に、隣にいた50代くらいの男性に声を掛けられた。
「このあたりの方ですか?」
「ええ」
「近くのショッピングモールに行こうと思うんですが、コロナはどうでしょう?」
その町だけのものではないショッピングモール
話を聞くと、ふだんは老親と三人、山奥に住んでいたが、自粛のストレスでがまんできずに町まで降りてきたという。
「ショッピングモール自体は田舎にありますけど、県内あちこちから高速を使って遊びに来るところですよね。
だから、まん延防止で外出自粛とはいっても割と混んでると思いますよ」
「そうなんですか。今からショッピングモールで食事でもして帰ろうかと思ったんですが、どうしよう」
「ちゃんと感染予防対策している飲食店だったら大丈夫じゃないですか。
とにかく手洗いと手指の消毒だと思いますよ」
と答えた。
田舎暮らしにもコロナ禍の影
話している中、とにかくコロナが不安な様子だった。
もともと都会で一人暮らししていたが、新型コロナウイルス感染拡大で年老いた両親に戻ってこいと頼まれて、半年ほど田舎で暮らしているのだという。
自然に囲まれて生活していても、コロナ禍の影響はすさまじくのし掛かっているようだ。
病気はうつるときにはうつってしまうし、病気は新型コロナウイルスだけではない。
また、必死で病気の予防に努めていても、突然心臓発作や交通事故で亡くなってしまうこともある。
とことんひとつの病気を封じ込めようとする「正しいこと」とそれ以外の視点から物を見ようとする、これまたひとつの「正しいこと」。
ふたつのはざまで翻弄される私たちは、どの程度軸を保っていられるのだろうか。
誰でも若く見える魔法の時代
そんなことをおじさんと話ながら考えていると、
「20代、もしかして30代ですか?」
と聞かれた。
そんなに若く見えるのだろうか。
それともコロナへの不安が人の年齢を若く見えるよう働いていたのだろうか。
なにより、そのおじさん、コロナに対してもの凄く不安を感じていながらも、いくら風呂の中とはいえマスクもなしで顔を近づけながら話しかけてくる。
そんなチグハグな感じに笑い出しそうだった。