2022年3月23日発売、乃木坂46の29thシングル『Actually…』は、ファンの間で波紋を呼んだリリースとなった。
センターに抜擢されたのは、5期生の中西アルノさんだった。
デビューと同時にセンター抜擢のはずが……
5期生の合格発表は2022年2月1日。
同日、「お見立て会」が開催されたばかりで、”史上最速”のセンターと呼ばれていた。
ただ、中西アルノさんは、デビュー前に過去のSNS投稿が問題となって炎上。
3月3日、活動を自粛すると発表された。
もともと、乃木坂46では、恋愛を含めたデビュー前のことに関して、運営は立ち入らないという姿勢が続いていた。
今回、中西さんとともに同じ5期生の岡本姫奈さんもSNSで炎上した結果、運営側も活動自粛という対処をしたようだ。
「バレッタ」の歴史
デビューと同時にいきなりセンターに選ばれるという流れは、かつて2期生の堀未央奈さんが研究生の立場で7thシングル「バレッタ」のセンターに抜擢された流れを彷彿とさせる。
堀さんを含めた2期生14名の合格発表は2013年3月28日。
5月5日にお披露目としてデビュー後、「バレッタ」のセンター抜擢は約半年後の10月6日のことだった。
堀さん自身、当然初めての選抜メンバーであり、2期生のうち単独で正規メンバーに昇格するという異例の事態だった。
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当時はまだ、乃木坂46の初期段階。
アイドルグループとして坂道を必死に駆け上がり始めたところであり、1期生同士もメンバーでありながら同時にライバルであるという意識が、画面を通してもひしひしと伝わってきていた時代だ。
乃木坂46の冠番組「乃木坂って、どこ?」で「バレッタ」の選抜発表がおこなわれたのだが、最後のセンターで名前を呼ばれたのは、1期生の錚々たる面々ではなくて、スタジオに見学に来ていた研修生の堀さんだった。
その瞬間の戸惑いと涙を流す堀さんの姿と、1期生の割り切れない複雑な表情との対比は、今なおファンの間で鮮烈なシーンとして語られている。
発表直後に読み上げられた運営からの手紙では、1期生たちが2期生の堀を育てること、それが乃木坂の未来につながること、といった主旨の内容が書かれていた。
「バレッタ」から9年が経って
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今や日本を代表するアイドルグループに成長した乃木坂46。
レコード大賞に紅白歌合戦出場など、輝かしい歴史を刻んできた。
メンバーたちもアイドルの枠組みを超えて、多方面で多彩な活躍を見せている。
2022年は乃木坂46、10周年の節目だった。
そんなとき、記念すべき新しいシングルの楽曲は、イントロは暗闇から何か胎動し始めるような雰囲気でスタート。
これまでの乃木坂46ではあまり見られない、神秘的なダンスミュージックが展開される。
新センターの登場に騒然
2022年2月23日、『乃木坂46時間TV』の番組終盤でこの29thシングル表題曲『Actually…』を初披露された際、5期生の中西アルノさんによるタイトル紹介からの曲入りは衝撃だった。
その後の活動自粛のため、中西さんがセンターとして披露したパフォーマンスはこのときだけだったと記憶している。
ただ、個性的かつ魅惑的な声で歌い上げながら、コンテンポラリー要素の強い振り付けをこなすセンターの存在は鮮烈だった。
”中西アルノ”が背負いきれなかったもの
中西アルノさんは10周年、そして11年目という重要な節目で、何を期待されてセンターに抜擢されたのだろうか。
乃木坂46は今や説明の必要がないくらい、存在自体が大きなものとなった。
AKB48の公式ライバルとして2011年8月21日に結成。
メンバーの清楚なイメージ、それまでのアイドルグループにはなかった斬新なMV。
冠番組「乃木坂って、どこ?」から「乃木坂工事中」を通して、ベテラン芸人のバナナマンがMCとなってメンバーを鍛え上げてきた歴史。
白石麻衣、生駒里奈、西野七瀬、生田絵梨花、齋藤飛鳥をはじめ、男性はもとより女性の憧れも集めるメンバーたち。
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ある意味、アイドルグループとして頂点を極めた存在になったこの10年から、さらに新たな10年を築くためには、乃木坂46に神話性、物語性が必要だったのではないか。
そして、他のアイドルグループを寄せ付けないほどの権威性を高めることが求められたのではないか。
記念すべきでデビューもしていない5期生が、センターという重責を担う立ち位置で選ばれたのは、そんな理由だったからかもしれない。
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中西アルノさんがセンターで初披露された直後、SNS上では、欅坂46時代の平手友梨奈さんを引き合いに出す投稿も少なくなかった。
今回、残念ながら、種々の事情が重なったために、当初の意図を達成する流れには事がうまく運ばなかったものの、アイドルグループとして未知の領域を切り開くためには将来必ず成し遂げなければならない重大な課題ではないかと考えている。
今後、6期生が加入する前後のタイミングで今回のような試みを再チャレンジできる可能性は十分に残されているだろう。
乃木坂46が築いた新たなアイドル像を破壊するために
AKB48から受け継いだ「会いに行けるアイドル」という枠組みは、コロナ禍のために薄れてしまっている。
その代わり次に必要なことは、良い意味でのアイドルとファンとの「距離感」なのかもしれない。
コロナ禍以前のようなライブはまだ完全に回復はしていない。
対面だった握手会は、オンラインミート&グリート(個別トーク会)に。
おそらく、コロナ禍がある程度収束を迎えても、オンライン握手会が主流となっていくだろう。
そのような流れの変化の中で、2022年春に打ち出そうとしたもの。
それが、乃木坂をさらに「神話」にすることだったと感じている。
近くて遠い存在であるには
アイドルという、もともとはるか遠い存在だったものが、0年代に秋元康氏のAKB48の登場で一気に「会いに行ける」近い存在となった。
だが、歴史は繰り返すと言おうか、人間はどこまでも贅沢なものなのか、とことん近い存在だけれでも、限りなく遠い存在でもあってほしいのだろう。
今後のアイドルグループに求められる潜在的なニーズとは?
再び定義し直さなければならない時代に入っている。