【詩】峠を越えて海に出る

家の
清らかな記憶と
汚れた血肉が
森の湖水に沈んでいく

峠を越えて
海に出る

黒い土地が
見えない潮でコーティング
されて
ただの砂になる

峠を越えて
海に出る

雨が森を流れて
立木が枯れ
魚が干上がっても
お菓子の家が
輝いている

峠を越えて
海に出る

泥水の
偏った心が
何度燃やしても同じだと
呟く

峠を越えて
海に出る

まとまってダメなら
離れればいい
離れてダメなら
まとまればいい
離れずにまとまることを良しとし
まとまって離れることを
見えない潮が覆い尽くす

峠を越えて
海に出る

鹿が
身動きもせずこちらを
向いている
動く物がすべて消えても
動かすモノの亡霊が
黒い大地を動かす

峠を越えて
海に出る

赤い月が
砂鉄に火をつける
死に際の鹿が
五千年前に生まれたかったと
眼で語る

峠を越えて
海に出る

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